プリティーリズム オーロラドリーム 富樫かりな論

※この文章について
 以下の文章は、私eifonenが2015年9月に同人誌で頒布した富樫かりなシナリオ(エセ脚本)本「富樫かりな〜煌めきの路を辿って〜」のあとがき部分を抜粋したものであり、富樫かりなというキャラクターがどのようなものであったかを、私的妄想も交えて推察したものです。


◆富樫かりなの半生を妄想する
 オーロラドリームBDBOX解説において、菱田正和監督は富樫かりなについて以下のように述べています。

「ライバルに恵まれず、プリズムショー冬の時代を支え続けた孤高のクイーン富樫かりなが、みおんを後継者に指名しプリズムショーの未来を託す」

 富樫かりなの物語を簡潔に述べていると思われます。これだけでも十分ではありますが、以下の文章では、富樫かりなの物語を、彼女が活躍した時代背景を鑑みながらもう少し詳細に、推測も含めてではありますが述べていきたいと思います。
特筆すべきは、「阿世知今日子への恋とも呼べる一方的執着」「『冬の時代』の孤独な苦闘」「高峰みおんへのバトン渡し」だと思われます。

◆叶わぬ阿世知今日子への想い
 まず、阿世知今日子に対するかりなの想いについて書いていきます。
阿世知今日子に対するかりなの作品内描写は、以下のものがあげられます。

1.新人時代、ピュアフレッシュウェディングカップにて阿世知今日子に挑もうとしたものの、今日子は引退してしまった。
2.その後9年で5度のプリズムクイーンに輝いたものの「今でも、阿世知今日子の背中を追い続けている」発言
3.みおんに引退を告げ、ピュアフレッシュウェディングコーデを「私が阿世知さんから受け継いだストーン」発言(今日子の頭上にはハテナマーク!)。
4.今日子に結婚することを告げる「お先にウェディングドレス、着ちゃいますね」

 前の1〜3を見る限りで、かりなは今日子に対して、まず並々ならぬ執着を、一方的に持っていたことが分かります。そして、それに対して、今日子が全く取り合っていなかったことも伺えます。富樫かりなは、阿世知今日子に対して一方通行の想いを、新人時代から引退に至るまでずっと抱いていた、と言えると思います。
 また、ここからは妄想とこじつけですが、富樫かりなが40話で飛んだジャンプは「プラチナ・スパイラル」で、一方少女時代の阿世知今日子が48話で飛んだジャンプも「プラチナ・スパイラル」です。たまたまではあるとは思いますが、一致しています。富樫かりなのキメ技が「プラチナ・スパイラル」であると仮定するならば、「富樫かりなは阿世知今日子(のプラチナ・スパイラル)に憧れを抱き、プリズムスターを目指すようになった」という追加設定もでっち上げる事が出来、富樫かりなの阿世知今日子への一方通行の想いは、さらに強烈な、憧れや恋とも呼べるほどのものであったと考えることができます。
 仮にそれを前提とすると、前述の1〜3のかりなの今日子に対する言動はより感慨深いものになってきますし、4での今日子へ結婚を告げるシーンも、最後まで自分に振り向いてくれなかった今日子へのあてつけと、自分自身へ向けた、今日子に対する決別宣言だったと解釈することが出来ます。

◆上葉みあになり損ねた富樫かりな
 余談ですが、こう(半ば強引な)解釈をしていくと、富樫かりなが阿世知今日子に憧れプリズムスターへ至った道筋は、上葉みあが春音あいらのオーロラライジングに魅せられプリズムスターを目指した(みあ「春音あいらになりたかった」)というディアマイフューチャーの話と似ている、と言うことが出来ます。富樫かりなと上葉みあは、本来似たもの同志であった筈なのです(好きな相手に対してつい空意地を張ってしまう所も似てますね)。しかし、進んだ道すじは決定的に違いました。みあが温厚な春音あいらに優しく受け入れられ成長していったのに対し、阿世知今日子の眼中には、かりなはなかった。今日子はかりなを置いて引退してしまいます。ハシゴを外されたかりなは、他のライバルにも恵まれず、今日子への片思いを独り抱き続けたまま、選手人生を経ることになります。
 かりなにとっては残酷ですが、ライバルに恵まれるか否かは、運に大きく左右されると言った所なのでしょうか。

◆「冬の時代」と揶揄された現役時代
 富樫かりなは、「9年で5度のプリズムクイーンになった」と作中で言われており、これだけ聞くとレジェンド級の選手です。しかしながら一方で、作中(39話)において、あいら達新星プリズムスターたちが現れる前の世代、つまり富樫かりなが活躍していた時代が「冬の時代」とハッキリ述べられています。
これはどういう事かと言いますと、菱田監督は以前ツイッターで「この時代(あいら世代)まで富樫かりなの長き一強時代でした。かりなは国内最強ではありましたが世界的には全くと言っていい程通用せず、日本プリズム界は長い冬の時代に陥ります」と発言しております(http://togetter.com/li/272513)。富樫かりなはプリズムクイーンとして君臨していながら、海外では勝つことが出来ず、冬の時代などと揶揄されるようになっていたのです。富樫かりなの内心を察するに、かなりのつらみがあったのではないでしょうか?かりなは外野からの厳しい目にさらされながら、孤独に10年近くにわたって辛い戦いを続けた、と考えることができます。

◆富樫かりなのモデル、ラリー・ホームズ
 以前、監督はツイッターで「阿世知今日子と富樫かりなの関係性のモデルは、モハメド・アリとラリー・ホームズだった」と仰っていました(現在は削除)。
 モハメド・アリ程度ならボクシングに疎い僕でも知っていますが、ラリー・ホームズは初耳でした。申し訳ないながらもウィキペディアを引用しますと、
「下積み時代モハメド・アリのスパーリングパートナーを務めた」
モハメド・アリの引退後、マイク・タイソン台頭までの、1970年代末期から1980年代前半、いわゆる『ポスト・アリ』時代に最盛期を迎え、ヘビー級で長期政権を築いた」
「ホームズ自身の実力は折り紙付きで、防衛戦でも多くの好ファイトを見せたが、『アリのコピー』呼ばわりされたこと、加えて強力なライバルの不在から、人気は今一つであった」
とあります。この記載を見る限りでは、長期政権を築きながらもライバル不在で不遇の選手人生を歩んだ富樫かりなと、確かに通じる所があります。
また、以下のようなエピソードもあります。ホームズがアリのスパーリングパートナー時代にアリのパンチで顔面にアザを作った際、ホームズはトレーナーの治療を拒否し、こう言ったそうです。
「俺はこの顔で街を歩いてみたいんだ。アリのパンチでこうなっちまったってね!」
この発言から、ホームズはアリに対して強い憧れを抱いていたことが推察され、かりなの今日子に対する強烈な思いと、類似したものを感じ取れます。

◆高峰みおんへバトンを渡す
 阿世知今日子への想いを抱いたまま10年近く孤独に戦いつづけたかりなですが、高峰みおんという新星に出会います。
 高峰みおんに対する富樫かりなの言動(40話時点)をまとめると、次の通りです

1.高峰みおんが出場するニューイヤーカップに急遽参戦する。
2.勝利したみおんに、自らのピュアフレッシュウェディングのストーンを託す。自らは引退。

 どのようなキッカケかは分からないですが、富樫かりなは高峰みおんに光るものを感じ、「阿世知さんから貰ったバトンを渡す相手が見つかった」と判断したのではないでしょうか。みおんが出場するニューイヤーカップに急遽参戦、勝利したみおんにストーンを託し、同時に阿世知今日子への決別も宣言して、引退します。自らの10年に渡る孤独な闘いに、ようやくピリオドを打ったのです。

◆みおんびいき・かりな真骨頂
 そして引退後、富樫かりながどうなったかというと……。プリズムクイーンカップ50話でのみおんに対する、TV解説者かりなの言動は次の通りです。

1.プリズムクイーンカップ解説、高峰みおんがピュアフレッシュウェディングコーデを身に纏っているのを見てフフフと微笑む。
2.みおんの演技を見て、まだ得点が出ていないにも関わらず「新女王と呼ぶにふさわしい」「これからの女子プリズム界は彼女を中心に回ると言っても過言ではない」などと解説しはじめる。

完全にみおん贔屓です。阿世知今日子から高峰みおんに乗り換えただけなんじゃないか、と勘繰ってしまいますし、この変える事のできない、強烈な女子愛好ぶりこそが、富樫かりなというキャラクターの真骨頂なんだな……としみじみしてしまいます。

◆かりなの慧眼
 また余談ですが、今日子からバトンを受け取った(と勝手に思い込んだ)かりなが今度はみおんにバトンを渡したわけですが、最終的にみおんはプリティートップの社長になります。今日子の後を名実ともに継いだ訳で、かりなの判断は間違っていなかった事になります。

◆「太刀花」姓といったら……
 更に余談ですが、49話では、富樫かりなは結婚して姓が「太刀花」に変わった(TV放映時の字幕から文字も判明)ことが分かります。「太刀花」姓といえば、菱田正和監督作品「陰陽大戦記」。結婚したのは一体誰なのか、色々と想像の余地があって楽しい所です。
(追記2015/3/13:またKing Of Prismの登場人物にも、太刀花ユキノジョウという太刀花姓の登場人物が登場します。菱田監督にとって太刀花という名前にはどのようなこだわりがあるのか、考えてみたい所です)

◆まとめ
 以上ダラダラと語って来ましたが、まとめますと、

・阿世知今日子に憧れを抱きプリズムスターになるも、今日子にはフラれる。
・しかしながら今日子に対する想いを抱き続け、『冬の時代』と外野に言われながらも、10年に渡り孤独な戦いを続けた。
・最後は高峰みおんにバトンを渡し、今日子への決別宣言もして引退した(そしてみおんに乗り換えた)。

と言う事になるかと思われます。半ば僕の強引な解釈も含まれていますが、しかしながら富樫かりなが今日子に対して強い想いを抱いていたのではないか、という仮定を少しだけでも念頭に置いてオーロラドリーム40話を見ると、格段に面白くなりますので、お勧めします。


◆以下蛇足
 ここからは、私がシナリオ本を書く上で更に深読み的かつ強引な解釈を行った点について、蛇足的に記載をしておきます。マジに勝手な妄想です……。

◆プリズムクイーンとしてのかりなの決意
 オーロラドリーム50話、春音あいらに子供たちから声援が飛んだのを受け、かりなは次のように解説しています。

「春音選手は子供たちにとって、いえ、私達プリズムショーを愛するすべての人々にとって、夢の存在なんです」

 春音あいらの様子を見て「夢になっている」とかりなは的確に表現しています。つまり、プリズムクイーンの資格のある人間は、皆の夢になりうるということを、かりなは知っていた、という事になります。
 かりなはプリズムクイーンでした。であるとするならば、「プリズムクイーンは皆の夢でなければならない」ということを身をもって知っている人間であるというのは、在り得ない話ではないと思われます。
 かりなはライバル不在の中クイーンに君臨することで、「皆の夢になり続けなければならない」と言う決意を抱き、その意志が、10年孤独な戦いを続け最後みおんにバトンを渡すまでの、原動力の一つになったのではないか、と私は勝手に考えています。

◆かりなの苦闘・蓮城寺べるの行く先
 富樫かりなは、海外では全く勝つことができませんでした。その結果「冬の時代」と揶揄されることになります。プリズムクイーンである彼女に対する風当たりは、相当強かったのではないかと妄想できます。拙シナリオでは、海外で勝てない富樫かりなに対して世間やマスコミが厳しく当たる様を盛って入れ込みましたが、これは、レインボーライブで「挑戦する姿を皆に見せ続ける」と宣誓した蓮城寺べるに今後待ち構えている苦難であるとも言えます。べるはまだ、プリズムクイーンになった後の世界に足を踏み入れていませんが、かりなは正にそれに翻弄されていた可能性が十分にある訳です。そして、実力は至らないながらも、かりながその中を必死に戦い抜いたとするならば、そこにかりなの尊さを見出せるのではないか、と私は勝手に妄想を重ねているのです。