「坪田文脚本」私的5選

※この文章について。
 この文章は、MMM37様主催のプリティーリズム合同誌「PrismCube」(2014年)における私eifonenの投稿を再編集したものであり、今回ここにて公開するにあたりMMM37様に許可を得ております。


■前書き
脚本家の坪田文さんは、「プリティーリズム・オーロラドリーム」「プリティーリズム・ディアマイフューチャー」「プリティーリズム・レインボーライブ」とプリティーリズム3作品すべてに脚本もしくはシリーズ構成として参加し、ストーリーの根幹を支え、素晴らしいお話を描き続けてきました。今回私は、坪田文さんの脚本でこれは面白かったなーというお話を、勝手ながらピックアップしてみようと思います。
具体的に言えば、坪田さんの脚本で分かりやすく面白いところは、コメディ脚本の砕けぶり(本筋から大きく脱線してあらぬところへ着地する展開)と、比喩を活用した切れ味抜群な台詞回し、通称「つぼふみ節」(勝手に命名にあると思っています。詳しくは各項目にてお話しします。


■言い訳(飛ばして構いません)
アニメーションにおいては(アニメに限った話でもないとは思いますが)、おはなしというのは担当の脚本家一人で作るわけではなく、監督、シリーズ構成を始めとしたスタッフ一同でアイデアを出し、それを元に脚本家さんが膨らませ、まとめあげ形にしていくものだ…だと聞いております。さらに言えば、一度完成した脚本でも、コンテやアフレコの段階でセリフが添削されることもしばしばあるそうです。したがって、ある話が素晴らしかったからと言って過剰に脚本家を持ち上げたり(あるいは悪かったからと言って全て脚本家一人のせいにしてけなしたり)するのは間違っており、脚本家単体の功罪をファンからの一方的な目線でああだこうだ言うのは、容易ではないと思います。ひょっとしたら制作側としてもあまり望んでいないことなのかもしれません。しかしながら、シナリオは脚本家一人が考えたものではなかったとしても、やはり主としては脚本家が書き上げるものですから、展開や台詞の端々に脚本家のクセみたいなものは、やはり出ると思います。そういった部分を、ファンの一方的な目線ではあっても、掬い上げ愛でていきたいという欲求はどうしても止めることはできません。従って誤った解釈や偏見でもって全く的外れな事を言ってしまうかもしれませんが、今回私は坪田文さんの私的ベスト脚本5つを思い切って選び、エイヤと色々書いてしまいたいと思うのです。


■その1:プリティーリズム・オーロラドリーム30話「ドキドキハロウィンはときめきじゃナイト☆」
 色々素敵な回があって迷うのですが、まず私が個人的に好きなこの話を選びました。
町のハロウィンイベントに参加する為の準備をしつつ、みおん・ワタル、あいら・ショウ、りずむ・ヒビキ三組三様の淡い恋模様が描かれる、というコメディタッチの回です。
あいら・ショウとあいら父ヒロシのやりとり、お菓子を欲張るりずむ、オバケ嫌いなみおん様、コーリングスのショーなど見所が多く、坪田文さんのコメディ脚本らしい砕けた楽しさを見せつつ話は進んでいきます。がしかしこの回の白眉は何といっても、ドタバタを繰り広げた結果、あいら達が唐突にステージに出てしまう箇所かと思われます。
話の大筋を書き出してみると「元町ハロウィンに参加する為に色々準備する」→「ドタバタしていたら何故か用意されていたステージの上に出てしまう」→「プリズムショーで〆」となります。前半延々と準備していたのは一体何だったのか?と思わざるを得ませんね。この強引かつ大胆な展開が私にとって頗る痛快で、大好きな一本になっています。 
この、コメディ脚本においてあらぬ方向へ話が飛んでいく展開は、坪田文さんがたまに見せる必殺パターンの1つなのではないか、と勝手に思っています(後述)。


■その2:プリティーリズム・オーロラドリーム45話「光訪ねてブエノスアイレス
 世界各地を転戦し連戦連勝をしつつも何か物足りないものを感じていたみおんが、JUNさんの導きによりブエノスアイレスの伝説のスケートリンクに赴き、自分だけの「光」を探すというお話です。
 ここで取り上げたいのが、比喩を活用した「つぼふみ節」です。
 まず冒頭でみおんが「みおんも探しているの」「自分だけの光を」と呟く所で、みおんなりの新ジャンプ開発(成熟)を「自分だけの光を見つける」と例えています。更に「じゃあそのみおんだけの光とは結局何か」という所で、ダイヤモンドダストを比喩に用いています。
「冷たい氷の輝きと、暖かな陽の光。この2つがないとダイヤモンドダストは輝かない」
「クールなみおんも、あいらやりずむと一緒に居たいって思うみおんも、全部本当のみおん。陽の光があるから、ダイヤモンドダストは輝く。きっとこれがみおんらしさ、みおんの光…!」
 普段のクールなみおんと暖かなみおん、両方あることが尊い。これこそが高峰みおんオリジナルの光なのだ…ということを、陽の光と氷によって生まれるダイヤモンドダストを用いて、巧みに表現しています。この言い回しがこそが、多くの坪田文さん脚本を印象深いものにしている「つぼふみ節」であると、私は勝手に考えています。比喩表現そのものは多くの脚本家さんが用いるものではありますが、坪田文さんは幾多のシナリオのクライマックスにおいて、ひときわ美しく比喩表現を駆使していらっしゃると、私は思っています。


■その3:プリティーリズム・レインボーライブ25話「さよなら、べる」
 前24話「ひとりぼっちの女王」でのべるの壮絶な挫折を受け、レインボーライブ前半最大の盛り上がりを見せる劇的な名回です。
 この回は名セリフ名シーンのオンパレードではありますが、私が抜き出したいのは、プリズムショー中のおとは・わかなの台詞
「私はべるさんの気持ちを癒す、香りになりたい!」
「私はべるの悲しい涙を吹き飛ばす、風になる!」
です。今まで1クール分を使って描写してきたべるとおとは、べるとわかな、それぞれの関係性を、おとはの「香り」、わかなの「風」というモチーフを用いた比喩表現で、一言でもって見事に収斂させています。正に、前述した「つぼふみ節」炸裂!といった所でしょうか。3DCGショーの美麗さも相まって、私が深く感銘を受けた箇所です。


■その4:極上!!めちゃモテ委員長second collection 57話「モテアイテム!二人を結ぶリボンコーデですわっ」
 私は「プリティーリズムシリーズの中から5作選ぶ」とは一言も言っていません…!
 坪田文先生はプリティーリズム以外にも様々な作品に参加していらっしゃいますが、そのうちの1つに「極上!!めちゃモテ委員長」があり、今回はあえてそこからエピソードを選びました。それには理由がありまして、私が考える坪田文さん脚本の良さが垣間見えるからです。
めちゃモテ委員長をご存じない方の為にストーリー概要をご説明致しますと、女子のオシャレについて知り尽くしためちゃモテ委員長・北神未海が、悩み多きお年頃の女子達を可愛いモテ子にミラクルチェンジし問題を解決していく…という素敵なお話です。
二年間に渡った放映のうちの一つの話がこの坪田文先生担当の通称「リボン回」でして、他の各話と比較しても何とも異物感があって、強烈なのです。
遠距離恋愛中の女子・春井さんとその彼氏友也くんを扱ったお話です。まず、彼氏が春井さんの地味な髪留めゴムをゴミと間違える、という坪田文さんらしい砕けたギャグから話は始まります(通称ゴミゴム)。髪留めをゴミと間違えられてショックを受けた春井さんは、北神未海のライバルキャラの一人・美村魔子のアドバイスを受け、リボンをいくつも過剰に『身に付けた』コーデで彼にアプローチをかけますが、自分でつけたリボンにばかり気をとられすぎて、失敗してしまいます。
ここで北神未海が登場し、春井さんに対して優しく諭します。
「リボンは『付ける』ものではありません。『結ぶ』ものなんですわ。リボンには本来、結ぶという意味があります」
「春井さんは、大会がもうすぐある友也さんを少しでも気遣ったりしましたか?友也さんのことを考えずに、自分を飾り立てることばかりに気をとられていては、お二人の心を『結ぶ』リボンはほどけてしまいますわ」
 唐突に未海が物凄い事を言いだすのでギョッとしてしまいますが、キーアイテム・リボンに「二人を結ぶ思い遣りの心」という意味付けをし、リボンの使い方を間違える=彼に対する接し方を間違えるという巧みな比喩表現が使用されています。これは正に、プリティーリズムで何度も目の当たりにした「つぼふみ節」に他なりません。「つぼふみ節」は何もプリティーリズムに限ったものではなく、坪田文さんに生来備わった武器であることがこの箇所から理解できます。
 文字数が限られているため省略しますが、他にも素晴らしい箇所がいくつもあり、この通称「リボン回」は、めちゃモテ委員長2年分を通してみても、5本の指ぐらいに入るのではないかという傑作シナリオになっております。めちゃモテ委員長は一話完結のストーリーで鑑賞しやすいこともあり、仮に坪田文さんに関して全く知らなくても、これを見れば坪田文さん脚本の面白さの一端を簡潔に知ることが出来ます。逆にこのリボン回を見ずに坪田文さんを語ることは出来ない、と断言しても良いと思います。
めちゃモテ委員長視聴当時、私はアニメを見る際に脚本家の事など全く気にしていなかったのですが、このリボン回はあまりにインパクトがあったので「誰だこんな話を書いたのは」と脚本家の名前を確認し、それによって坪田文さんの名前を知るに至りました)


■その5:極上!!めちゃモテ委員長second collection 92話「美女と野獣!お嬢様とコワモテ番長の恋ですわっ」
再びめちゃモテ委員長です。この話は、先述した57話とは別方向で強烈です。
とある番長男が美しいお嬢様に恋をしてしまい、自分を変えてお嬢様に告白しようと未海を頼ってくる…という、いわば身分違いの恋の王道のような内容です。未海によるミラクルチェンジの支援を受けての最初のアプローチはあえなく失敗に終わり、番長は失意のどん底に落ちる、しかしながら、未海たちの叱咤激励により再起…とここまでは理解できる内容です。が、そこから番長が「マラソン大会に勝って優勝したら告白する!」と今までの話の流れと何の脈絡もない事を言いだしてから、話がおかしくなってきます。そしてマラソン大会からさらにもう一段脱線を経て、何故か番長とお嬢様は無事にハッピーエンドを迎えてしまいます。
途中からは作品のウリである未海のコーデと全く関係ない部分で話が進んでいき、混乱させられます。めちゃモテ委員長シリーズのパターンに慣れきった目で見ると尚更で「こんな無茶苦茶な話が許されていいのか!?」と狼狽すること受け合いです。
そしてこのハチャメチャな展開の方法は、先述したオーロラドリーム30話の、唐突にステージに出てショーをしてしまう箇所と似ているように感じます。コメディ展開における坪田文さんのお得意のパターンの1つと言ってもいいのかもしれません。
(ちなみに、映画「プリティーリズム・オールスターセレクション」の熱唱上映に来場なさっていた坪田文さんとほんの少しだけお話を致したことがあるのですが、先生本人の口から、「リボン回はとち狂っている」「番長回も凄い」とお墨付きを頂きました。従いましてやはり、坪田文さんの脚本に興味を惹かれた方は、「リボン回」「番長回」の2本は是非とも見た方がよろしいかと思われます)


■まとめ
 以上が、私が勝手に選んだ坪田文さん脚本5選となります。今回選ばれなかったプリティーリズム坪田文さん担当回の中にも、名作は沢山ございます(例えば、坪田文さんが「たまに振り返って視聴する」と仰ったディアマイフューチャー50話とレインボーライブ48話は勿論超絶名回です)。また5選中2本は、非プリティーリズムめちゃモテ委員長から選びました。プリティーリズム以外の作品から選出することで、坪田文さん脚本の特長をよりくっきりと浮き彫りにしたい、という狙いが多少ありました。
 繰り返しになりますが、(私の未熟な目で見る限りでの)坪田文さん脚本の特長と言うのは、コメディ脚本の砕けぶり(大胆な舞台転回)、ならびに、比喩を活用した「つぼふみ節」であると考えております。そういった点を意識して、今後坪田文さん脚本の映像媒体を視聴してみると、割と楽しいのではないかと思われます。
…余談ですが、今回はめちゃモテ委員長の、坪田文さん脚本のみをピックアップしましたが、それ以外の話においてもめちゃモテ委員長はオシャレや友情やラブをテーマとした楽しいエピソードが盛り沢山ですし、3DCGアニメとしても(ごく初期に目をつぶれば)視聴にたえうるものとなっております。
更についでに言えば、めちゃモテ委員長においては「女子はなぜオシャレをするのか」「『モテ』とは何か」という根本的な話題に対してもサジェスチョンが投げかけられています。男子はしばしばそれを理解し損なう事があるのですが、めちゃモテ委員長の主張する『モテ』とは男に媚びることではなく、自分に自信を持つためのものであり、言ってみればこれはセルフエスティームの問題なのです(邪推ですが、レインボーライブ29話のべる店長回におけるべるの「ファッションで一番大切なものは自信」というセリフは、めちゃモテ委員長における仕事からフィードバックされたものではないかと勝手に想像をしております)。
ごちゃごちゃと書いてしまいましたが、つまる所私が言いたいのはめちゃモテ委員長みんな見ようぜ!」という事です。